人が来ない…平均年齢60歳の土木工事会社が選んだ意外な一手

人が来ない。
募集を出しても応募がない。
来ても続かない。

採用の相談を受けていると、こうした声を本当によく耳にします。人材不足は多くの中小企業にとって深刻な問題ですが、その中でも特に厳しいのが、工事現場の作業員の採用ではないでしょうか。

求人情報は溢れているのに、なぜ人が集まらないのか。今回ご紹介するのは、埼玉県にある土木工事会社の事例です。

この会社も、長年採用に苦しんできました。求人広告に何百万円もかけた年もあれば、現場作業員に特化した人材紹介サービスを利用したこともあります。

しかし、どの方法でも思うような成果は出ませんでした。採用コストだけがかさみ、現場に人は増えない。そんな状況が続いていたのです。

一方で、長年会社を支えてくれている作業員さんたちは、少しずつ年齢を重ねていきます。ついこの前50歳になったと思っていた方が、気づけば60歳。「この先、いつまで現場に立ってもらえるのか」そんな現実が、すぐ目の前まで迫っていました。

私も採用のご相談を受け、いろいろな方法を試しました。5年でもいい、3年でも働いてもらえればという思いから、60代にターゲットを広げたこともあります。

それでも応募はほとんどありません。たまに「ダンプの運転だけならできる」という方が現れることはありましたが、実際の採用につながるケースはありませんでした。

そこであらためて提案したのが、妥協せず40〜50代の工事経験者を狙うという方針です。そのために、まずこの会社の「本当の強み」を一緒に洗い出すことから始めました。すると、すぐに一つの特徴が浮かび上がってきました。

この会社の現場は、ほとんどが同じ市内にあります。会社から現場まで車で数分、遠くても市内の端で20分ほど。移動に時間を取られることがほとんどありません。

残業もほぼなく、現場が早く終われば17時には自宅に帰り、風呂に入っている。そんな働き方が当たり前の会社でした。社長と話をする中で、他社では遠方の現場に行くことが珍しくない、という話になりました。

例えば埼玉から都内の現場に向かうだけでも、渋滞を考えると1時間、場合によっては2時間かかることもあります。朝8時の朝礼に間に合わせるためには、どうしても早朝に家を出る必要があります。都内ならまだ近い方で、大きな現場が終わった後、そのまま千葉の下の方や神奈川の奥まで移動するケースも少なくありません。

若い頃は「朝が早くて眠い」で済んでいたことも、年齢を重ねるにつれて体にこたえるようになります。現場から会社、そして自宅へ戻る、その往復そのものが負担になっていくのです。こうした悩みを抱えている現場経験者は、決して少なくありません。私たちは、そこに注目しました。

求人サイトを見渡してみても、条件面で大きな差別化ができている求人は多くありません。現実的に、転職によって大幅な給与アップや待遇改善を期待できるケースは限られています。それなら、「通勤が楽」「移動が少ない」という理由で会社を選ぶ人がいても不思議ではありません。

その層に向けて、自分たちの強みをきちんと伝えていく。そのために取り組んだのが、動画やSNSを使った情報発信でした。

「うちみたいな仕事じゃ人は来ない」
「若い人なんて来るわけがない」

そうやって最初から諦めてしまう会社も多いですが、自分たちにとって当たり前の環境が、他の人にとっては魅力的な条件になっていることも少なくありません。

ネットの向こう側にいる求職者の顔は見えません。それでも、その人たちが何に悩み、何に不安を感じているのかを想像することで、求人の出し方やホームページの作り方、SNSの使い方は大きく変わってきます。

採用がうまくいかないと感じている場合、条件を変える前に、まず「自分たちの当たり前」を見直してみることが、ひとつのきっかけになるかもしれません。

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